浦沢直樹氏の代表作「マスターキートン」第2巻の第5章「FIRE&ICE」を読む

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僕は浦沢直樹氏のファンです。とくに「MONSTER」を好んで読んでいます。単行本で18巻ありますが、ハラハラ、ドキドキ感が持続し、最後まで読ませる作品です。簡単にいうと、「自分探し」の物語です。今日は浦沢氏の得意とする人間ドラマがよく描かれた作品をご紹介します。

浦沢氏の別の代表作に「マスターキートン」があります。主人公のキートン太一は大学で非常勤の講師をしながら保険調査員として活躍しています。

1話完結型のの物語構成なので、毎回話が完結します。第2巻の第5章「FIRE&ICE」を読んでみました。

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あらすじ

キートンは東京オリンピック1万メートル走で金メダルを獲得したチャールズ・ファイヤマンの未亡人に紛失した金メダルを探してほしいと依頼されます。未亡人によると、その金メダルにはファイヤマンが刻んだとされる「FIRE&ICE」という文字が刻印されているというのです。

キートンは、警察の捜査に同行し、19歳になる空き巣常習犯、ヘイズ・マッコイという少年を捕らえようとして、彼が逃げ延びるために投げたナップサックの中から金メダルを見つけ出しました。

もちろん金メダルはファイアマンのものだと考えられるのですが、警察から返還されなかったのです。別の人物から「FIRE&ICE」という文字が彫られた金メダルを紛失したという盗難届が出されていたからです。その人物はスラム街で非行少年に陸上競技を教えているブライアン・ヒンギスという中年男性でした。

キートンは刑事と一緒にヒンギスに会いに行きました。ところが、ヒンギスは「あのメダルは私のもので空き巣に盗られた」と言い張るのです。キートンは未亡人にブライアン・ヒンギスという人物を知っているのかと尋ねましたが、未亡人は知りませんでした。

未亡人はキートンにファイヤマンが死ぬ間際に言い残したことを話します。ファイヤマンは「私は以前、神を道具に人を脅迫した」と言ったそうです。その言葉を聞いて、キートンは、未亡人が部屋に飾ってあったファイヤマンの写真に一緒に映っていたブライアン・マグダネル選手に注目するのです。

ブライアン・マグダネル選手は神父という異色の素顔を持っていて、ヨークシャーの大会でファイヤマンに勝ってから東京オリンピックの1万メートルの代表に内定していたのですが、賞金レースに出ていることをホワイト記者とのインタビューで公言し、陸上競技界から永久に除名されていたのです。

キートンはさっそくホワイト記者に会いに行きました。ホワイト記者によると、当時は賞金レースは公然の秘密になっていて、陸連の幹部はブライアン・マグダネルに他に賞金レースに出ている選手をリークするように迫ったが、ブライアン・マグダネルは拒否したそうです。もし、ブライアン・マグダネルが話していれば、ファイヤマンの名前もあがっていたという噂もあったようです。

そしてホワイト記者は重要なことを話します。ブライアン・マグダネルのニックネームが、「アイスマン」であると。キートンの脳裡に「FIRE&ICE」という言葉が浮かびます。そう、金メダルに刻まれた「FIRE&ICE」という文字は、ファイヤマンとブライアン・マグダネルのことだったのです。

ファイヤマンとマグダネルは東京オリンピックの4年後に再開し、4年に一度二人だけのオリンピックを開いていたのでした。ファイヤマンは疑惑をかけられたころ、マグダネルが神父を務める教会の告解室に行って、不正な賞金レースに出たことを告白したのです。マグダネルは神父であるため、告白を絶対に他人に漏らせないことを計算した上での行動でした。

未亡人はすべてを知ったうえで、ぽつりと漏らします。「彼は主人を許してくれたかしら」と。キートンはマグダネルに未亡人の気がかりをぶつけたのです。そしてマグダネルはファイヤマンの疑惑をすべて否定してから言ったのです。「彼は最高のランナーで、私のたった一人の友達だった」と。

感想

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このお話は、「FIRE&ICE」という文字に込められた意味を巡って展開されています。作者の気持ちは常にマグダネルのそばにあり、優しく語り掛けているようです。僕はこの物語のテーマは「許す」だと思います。

東京オリンピックに出場できる実力があったにもかかわらず、それを断念せざるを得なかったマグダネルの心中を察すると、心が痛くなります。マグダネルは神父だからファイヤマンを許したのでしょうか?

そうではなく、ファイヤマンの走ることへの情熱からではないかと思うのです。マグダネルも走ることにかけては人一倍熱心だったけれど、ファイヤマンには負けていたと感じていたのではないでしょうか?

そう考えないと、マグダネルを許した理由が僕には分かりません。だからこそ、二人だけのオリンピックを4年ごとに開催していたのではないでしょうか?

マグダネルは神父という仕事柄、多くの信者の秘密を抱え込みます。相当ストレスになっていると考えられるのです。神と対峙することはできるでしょうが、人に対して自分らしさを表に出しにくかったと思うのです。ファイヤマンの存在が、ファイヤマンと一緒に走ることが、マグダネルに一人の人として気楽に時間を過ごさせることになったのです。

マグダネルは言います「ファイヤマンは友達だ」と。この言葉は偽りのないマグダネルの気持ちを表しています。マグダネルは、ファイヤマンという友達と一緒に走ることに生き甲斐を感じていたに違いないのです。

ぜひ一読してみてください。

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