「ザ・シェフ」【幻の料理人編】第12話を読んで原作者の剣名舞氏の脚本術を解き明かす

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「ザ・シェフ」は1985年から「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)に連載され始めた料理漫画です。天才料理人・味沢匠がその料理の技術を活用して、依頼人の問題を解決する話です。1話完結型の構成です。

今でこそ料理漫画はたくさんありますが、その当時は少なかったので、ブラックジャックに似ている主人公の容姿とともに注目されました。「ザ・シェフ」の特徴は、物語の題材が料理というだけであって、その本質は人間ドラマなのです。

では、どのような人間ドラマに仕上がっているのか見てみようと思います。

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あらすじ

主人公・味沢匠の自宅に孤児院「希望の里」の園長先生がある少女を連れてやってきます。この少女は小麦ちゃんといい、1年前に山の中で迷子になっているところを救われたのでした。その救われるまでのあいだに、どうやら記憶をなくしてしまったようなのです。

小麦ちゃんはおとなしい子なのですが、この前、突然トンカツを抱きかかえるようにして泣き出したのです。

それを見た園長先生は、小麦ちゃんがトンカツに特別な記憶があると思いました。トンカツ専門店や洋食の匂いがするレストランなどに住んでいたのではないかと思い、味沢匠ならその方面に詳しいので、小麦ちゃんを連れて来たのでした。

味沢の自宅には弟子の太一がいて、三人でトンカツ屋巡りをすることになりました。さまざまなトンカツ屋に行ってみたところ、小麦ちゃんを知っている店主に出会うことができました。

その店主の話によると、小麦ちゃんは大道寺という実業家と彼の自宅に務めるお手伝いさんとの間にできた子供だったのです。小麦ちゃんは父親から冷たくされていたので、大道寺家で専属コックをしていた店主になついたそうです。小麦ちゃんの母親は昨年亡くなったと聞いているようです。

味沢たちは小麦ちゃんを連れて大道寺氏に会いに行きました。しかし、大道寺氏は小麦ちゃんのことを知らないと言うのです。そして、小麦ちゃんも大道寺氏のことを父親ではないと言います。

さきほどのトンカツ屋の店主が奥さんと相談して、子供もいないこともあり小麦ちゃんを育てることにしたのです。

 感想

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水戸黄門を思わせる勧善懲悪な物語であります。ちょっと違うのは、悪(小麦ちゃんの父親)をやっつけることがなかったことです。そして、この話では、もはや味沢匠の料理人としての腕前は関係ありません。

この話の中で、主人公は何かをしたでしょうか?

いや、主人公は何もしていません。ただ、トンカツの歴史を語っただけなのです。主人公の天才的な技能を発揮することなく物語が終わっているからこそ、原作者の描きたかったものが、人間ドラマであると言えるのです。しかし、人間ドラマにしては軽い感じがしますが。

もう少し工夫が必要な気がしました。物語の基本は、「問題が提示され、主人公が解決する」です。主人公が解決するときに、主人公の技能や特徴をうまくいかして解決することが大切です。

「ザ・シェフ」の基本ストーリーは、「主人公の味沢匠が依頼人から悩みを解決してほしいと頼まれ、その天才的な料理の腕前で依頼人の問題を解決する」です。

ところが、今回のエピソードは基本に忠実ではありません。主人公は何もしていませんし、中心人物である弟子の太一も何もしていません。小麦ちゃんの父親のところに行っても何もせずに戻ってきています。

はっきり言って失敗作です。まず何より、「変化」が描かれていません。

では、どのように改善したらよいでしょうか?

この物語の発端は、園長が味沢匠に依頼することから始まります。この依頼する人物をトンカツ屋の店主に変更します。物語の主筋をトンカツ屋の店主が小麦ちゃんを育てる決心をするまでにするのです。

小麦ちゃんは、味沢匠の作ったトンカツは美味しいと言って食べるのですが、トンカツ屋の店主が作ったトンカツは美味しいとは言ってくれません。トンカツ屋の店主は悩みます。

実は、味沢匠の作るトンカツは、小麦ちゃんの母親が作ったトンカツの味によく似ているからなのです。トンカツ屋の店主は、味沢匠と同じ味をだそうと試行錯誤します。それと同時に、小麦ちゃんを育てるかどうかを悩みます。

こういう設定にすると、トンカツ屋の店主の苦悩や葛藤が描けます。クライマックスでは、店主の作ったトンカツを美味しいと言ってもらえ、店主は小麦ちゃんを抱きしめます。そして、店主は「今日からおじさんがパパだよ」と小麦ちゃんに言います。

このように描けば、少しは改善されるのではないでしょうか?

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